本一冊

すべての積読は一冊の本から始まる

「フィッシュ・オン」開高健

フィッシュ・オン 開高健


自分では釣りをしないけど、釣りの話とその魚を食する話は割と好きだ。以前、オーパ!を読んだことあるけど、こちらは初めて。写真付きなのと、表紙が盟友・柳原良平なのがいいと思う。

 

文庫概要

 

タイトル フィッシュ・オン
著者 開高健
出版社 新潮文庫
この写真にちなんで、こちらの文庫を紹介したい。

 

盟友・柳原氏の念願かなった1冊だなと。

 

カバー 柳原良平
写真=秋元啓一

 

内容紹介

 

要するに釣りの話なんだけど、旅行記の趣もあっていい感じかなと。こちらが期待したほどの、食&酒の話はなかったけどね。ラインナップは下記のとおり。

 

 

アラスカ

 

しょっぱなからボリューミーで、読了後に思ってみれば、作者の思いなどいろいろな意味でこの作品のうち、この章だけで3割程度の熱量があったのではないかと。最初だし、この著者が落ちている鬱の沼が深い。ここでの素材とは、小説の材料かと。

 

けれど、素材と出会えず、自身が燃焼できない時は、とらえようのない焦燥と憎悪にみたされたまま、部屋のすみにウィスキーを吸いこんだ海綿のかたまりとして落ちているしかなかった。今回のがそれであった。いわゆる”ブランク”でないことは、かなりわかっていて、むしろ私は発作と意識していた。

 

福田蘭童氏は、洋画家・青木繁の息子でなかなか興味深い方。自分の積読に著書1冊あるのだが、読むのが楽しみで、こんなコメントがあれば期待は膨らむ。

 

東京を発つまえに私はコンドームを持って渋谷の福田蘭童氏が経営する小料理屋「三漁洞」へ氏を訪れた。井伏鱒二氏の『川釣り』の一篇中に紹介してある挿話によると蘭童氏は海釣り、川釣りの天才であって、指の感覚が異様に発達し、紙に指でふれただけでそこに印刷されている色彩がいいあてられるとのことである。

 

スウェーデン

 

この挿話は、「歩く影たち」に収録されている「貝塚をつくる」でも言及があり、描かれている華僑の興味を引くネタになっている。

 

これが、スウェーデンカール・グスタフ殿下とか、フィンランドのケッコーネン大統領閣下とか、釣りの好きなV I P(重要人物)が激務をさいてお成りになるアブ社のゲスト・ハウスである。

 

ここでは釣り道具のブランド話が多く、マニアでなくてもブランド話は面白い。

 

ナイジェリア

 

直接釣りの話ではないけど、旅行記や開高作品の湿度が感じられ、自分こういう描写を読むのは非常に好き。

 

東南アジアのしたたかな雨期で私はかなりの経験を積んだつもりでいたが、乾いて淡くて明晰な北方からおりてきたあとでは、やっぱりつらい。(略)コンラッドの小説のなかではアジアや南方におりてきた白人たちがガジュマルの気根にからみとられるようについに川や原生林へ崩れるままに果ててしまう過程が描かれていて、広大な憂鬱がたちこめているが、近頃の私にはいくらかわかるような気がする。

 

後記

 

妙に納得。今後はこの本人談を踏まえて作品を読み続けると思う。

 

一九六九年にはアラスカをふりだしに地球をほぼ半周するという旅行までやってしまった。何事によらず私は手をつけだすと、とことんやってしまわずにはいられなくなるというところがある。火をめがけてとびこむ蛾のようなものである。

 

この1冊でした(Amazon

 

アンクル・トリスの生みの親によるイラスト、きっと魚も忠実に描かれているかと。