「オリガ・モリソヴナの反語法」米原万里

タイトル少々わかりにくが、小説読了後には納得できる感じがロシア

装画/N・V・パルホメンコ
装画/N・V・パルホメンコ

ロシアのウクライナ侵攻により、如何に自分はロシアを知らないな… と米原作品を読み始めている。評論やエッセイが多いけど、ようやくまずは2002年発表のこちら。

文庫概要

タイトルオリガ・モリソヴナの反語法
著者米原万里
出版社集英社文庫
この写真にちなんで、こちらの文庫を紹介したい。

装画/N・V・パルホメンコ

こちらは万里女史が好んだ画家による作品で、他の著書の表紙にも利用されている。

内容紹介

ロシア連邦と周辺、モスクワ市内の地図も掲載されていて、妙に参考になる。

小説以外にも、対談と解説が含まれている。

  • オリガ・モリソヴナの反語法
  • 対談『反語法』の豊かな世界から 池澤夏樹/米原万里
  • 解説 亀山郁夫

15章で構成され文庫本で500ページ近い大作、どっぷり作品世界にハマれるのが大作の魅力だなと。

この辺りの描写、作家の癖かもしれませんが、女史は瞳に登場人物の心境を語らせることが少なくない。確かに東洋人と異なり、西洋人の瞳はカラフルだから、自分も割と気になる。

礼を言うのがやっとだった。魂を吸い込まれてしまいそうな澄み切ったグリーンの瞳には、しかし若々しい溌剌とした輝きはなかった。

13

主人公であるモリソヴナ女史の描写だけど… どことなく晩年の万里女史の美意識がうかがえる気もする。

ガラガラのしゃがれ声とともに強烈な香水の匂いがした方を見上げると、目も覚めるようなコバルトブルーのベレー帽の下から金髪の巻き毛がはみ出た、真っ赤な口紅をつけた女の人が立っていた。クリーム色とコバルトブルーの大胆なチェック模様のスーツ姿。ハイヒールもコバルトブルー。首には金色の鎖を何重にも巻き付けていて、それがまるで蛇みたいだった。

14

こちらは、モリソヴナ女史の粗雑?な言葉遣いによる理由付けではあるけど、こういうちょとした部分にロシア民衆の思想みたいなものが感じられる。

「彼女たちは、あたしたち上品な政治犯みたいに群れの羊よろしく看守の言うがままに振る舞ったりしない。いちいち看守や衛兵の言動に文句を言い、自分たちの権利をとことん主張する。必要ならば団結するし、仲間のために身体も張る。衛兵を召使いのようにこき使ってたのが、痛快だった。列車が止まるたびに、新鮮な水を何度でも運んで来させたし、近隣の農家からパンや野菜や卵などを買ってこさせていた」

15

そして、いかに島国の自分は地続きとなる東欧諸国の歴史を知らないなと思った。今回のウクライナ侵攻でまた。民族は入り乱れて多くの人々から”祖国”という概念を取り上げてしまうのかなと。フム。

わたしたちのパスポートを偽造する際に、マルティネクは、わたしを自分の養女にしてくれたけれど、ママたちについては、古くからチェコに在住するロシア人と言う形にしたの。

小説は結末にどんでん返しを盛り込みすぎかな?という、著者のサービス精神に疑問も残るが、それがなくてもロシア人の生き方を生々しく感じることができる内容であった。

以下は対談から、ロシアのことを感じ取れた内容を(自分の感覚で)抜粋してみた。

対談『反語法』の豊かな世界から 池澤夏樹/米原万里

「すばる」誌2004年1月号

■罵倒語の豊富さ

米原 ロシア人はそれを誇りに思っているような節がありますね。ゴーリキーはロシア語が世界で最も罵詈雑言の多い言語だと威張っています。

■良心に忠実なロシア人

米原 私もそう思います。日本人は、悪人も小粒ですよね。悪がほぼ等分に分配されている感じがします。(略)でも、猜疑心を持たないいい人が巨悪を許す、という点では、いい人の罪も重い。

米原 (略)エリツィンがチェチェンで失敗したのは、ジャーナリストを野放しにしたせいだ。敵の兵士を殺すより前に、ジャーナリストを殲滅せよ、とKGB出身のプーチン大統領は檄を飛ばした。それで男性の書き手はどんどん弾圧されて、今、女性の書き手ががんばっているんですよ。

■社会主義は人間を商品化しない

池澤 少なくとも、資本主義的なやりたい放題をチェックするための社会主義的仕組みというのは、機能していたわけでしょう。だんだん崩れてきたけれども。
米原 (略)世界最高のチェロ奏者と言われているロストロポーヴィチについて通訳したことが何度かあるんですが、彼がもう亡命十六年目になったころ、殺されてもいいからロシアに帰りたいと言って、コンサートが終った後、ウォッカをがぶ飲みして泣き出しちゃったんです。ロシアにいる間は才能があるだけでみんなが愛し、支えてくれたけれども、西側に来た途端にものすごい足の引っ張り合いと嫉妬で、自分はこういう世界を知らなかったから、それだけで心がずたずたになっていると言っていました。彼にとって、才能は自分のものじゃなくて、神様が与えてくれたものなんです。モスクワ高等音楽院に入って、あまり練習しないのにすごくうまく弾けて、一生懸命努力しているのに自分より下手な人がいる。自分が努力して得たものならそれは自分のものだけれども、これは神から与えられたものだから自分のものではない。そう考えるわけです。

この1冊でした(Amazon)

いずれにせよ、まずは会話による交渉で世界平和を維持していけないものかなと… 引き続き、もっとロシアや東欧諸国の作品も読んでみたいなと。