「真昼の星空」米原万里

カバー画 N・V・パルホメンコ

ウクライナ侵攻に伴い、米原万里作品を立て続けに読み、プーチンを理解するには至らなくても、自分はいくつか貴重な気づきを得た。

文庫概要

タイトル真昼の星空
著者米原万里
出版社中公文庫
この写真にちなんで、こちらの文庫を紹介したい。

カバー画 N・V・パルホメンコ

N・V・パルホメンコさん作品が表紙の文庫本3冊、こちらが最後に紹介する1冊。

内容紹介

隙間な時間で読める感じが通勤時読書向きだけど、自分はそれとは関係なく読み進めた。

本書は『読売新聞』日曜版に「真昼の星空」の通しタイトルで連載(1998年6月7日~2001年3月25日)された142篇のうち80篇に加筆訂正したものです。

  • 4ページ程度×80編
  • あとがき
  • 文庫版巻末特別企画 米原万里 大解剖 編集部編 小森陽一ほか

ある程度、万里女史の著作を読み傾向をしつつあるけど、さすがに女史のエッセンスが詰まっている1冊であったかと。

昼行灯の面目

反語チックなタイトルの意味する部分を読み進めていると、お母さまからの反応(日本語にも「昼行灯(ひるあんどん)」という似た表現がある)に笑わされる。

現実には存在するのに、多くの人の目には見えないものがある。逆に圧倒的な現実と思われるものが、単なるこけおどしだったりする。目に見える現実の裏に控える、まぎれもないもう一つの現実。「昼の星」は、そういうもの全ての比喩であった。
(略)
と母が教えてくれた「昼行灯」という単語を辞書で調べると、
「ぼんやりして役に立たない人。うすのろ」
とある。
「ふん、詩精神(ポエジー)を欠いた俗物め!」
心のなかで母を罵ったものだ。

私生活も臓器も

自分も何かあればすぐに物事の商品化(金銭的価値)を測るような思考経路だったこと、思い知らされる。

ひと昔前までただだったものが、いつのまにか有料になっている。商品にされてしまっている。教師の学生に対する評価は業者テストに、子どもの遊びはゲーム機に、将来に対する不安は保険に、歌を歌うという楽しみまでカラオケ・セットに取り込まれてしまった。すでに、臓器ビジネスなるものまで登場している。

ダイエット

そしてこれも、上記同様に…。すっかり「お金」という評価基準に毒されていた。

(略)まだ金儲けの余地はないか、どこかに見逃しているモノはないかと、虎視眈々と次の獲物を狙う。そこで、目を付けられたのが、人間の能動的力である。新商品の開発は、これを限りなく削いでいく方向で進んでいる。

いきなりざっくり総括してしまうけど、もはや老後にむかってゆく自分、何でもお金で解決することを考えるのではなく、自力でできることで生きてゆかねばなと考えさせられた。

蟻にも個性

一方、日本人社会の没個性的な言動に悲観するのではなく、その控え目心理の根底にあるものを指摘した点に、自分は気づかされた。今のロシアに必要な姿勢ではないか!

しかし、しばらくすると、一見没個性的な振る舞いの裏に、実は人間関係が緊張することを最大限避けるため、なるべく当たり障りのない言動に終始するよう気を遣う、自分と同年代の若者たちの様子に心打たれた。

埋もれる才能

これも新しい気づきだったなと。

「自分には才能があるのに、馬鹿な周囲に認められない」
 としばしば嘆く人がいるが、タレントの語源からすると、才能は埋もれるはずのないものなのだ。その才能を花開かせる力も含めて才能なのだ。

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