普通に特別を見出す武田泰淳夫人「遊覧日記」秀逸なセンス満載

自分勝手な遊覧のイメージによる画像

「遊覧」の意味は「見物して回ること」らしいけど、自分にとってのイメージは「遊んで回ること」で、画像は遊んだ後のお役御免の白鳥です。

この写真にちなんで、こちらを紹介したい。

遊覧日記
武田百合子
武田花(写真)
(ちくま文庫)

普通の光景を読ませる楽しみ

武田泰淳の奥さん、百合子女史によるお散歩エッセイの類であるけど、あの「富士日記」を楽しく読んでしまった人には、こちらも楽しんで読めるかと。

この女史にかかれば、普通の生活からも多くの好奇心があぶり出されるので、毎日平凡な日々などあり得ないなと思う。逆に何もないことの安らぎすら特別な瞬間にしてしまうマジックがある(ような気がする)。

次の14章から成っていた。

やはり面白いネタは浅草に落ちているのか、蛇センターなど絶対行きたくないけど、2019年末の現在でも「ジャパンスネークセンター」として存在しているようだ。

  1. 浅草花屋敷
  2. 浅草蚤の市
  3. 浅草観音温泉
  4. 青山
  5. 代々木公園
  6. 隅田川
  7. 上野東照宮
  8. 藪塚ヘビーセンター
  9. 上野不忍池
  10. 富士山麓残暑
  11. 京都
  12. 世田谷忘年会
  13. 京都
  14. あの頃

例えば「浅草蚤の市」では、次の普通ではなさそうな人物と繰り広げたやり取りを語る。こういう人物とてらいなく渡れるから、味わい深いエッセイが書けるのだろうなと。

近ごろ流行りのお宮の境内や公園で催される蚤の市に店をひろげている、芸術家風のひげを生やした若い衆などとはちがった、凄みのきいた派手な貫禄がある。露店商界の大御所、剥製界の重鎮、といった雰囲気がある。

それでいて「上野東照宮」で遊覧する「東照宮ぼたん祭」では

あたしが好きだと思ったのは、開き切ったあと、ふっとゆるんで、脂汗みたいなものが滲み出ていた花だ。まん中へんで一輪見た。(花が咲いている状態は、どんな花でもそうなのだけれど)性器を丸出しにしているのだから、わるいような気がして、あまり長くは見ないできてしまった。

とか、「上野不忍池」ではチーター(水前寺清子女史のことで、昭和生まれでないとわからないかな?)のイベントを見ていた近くの老齢夫妻の妻の様子を具体的に描写する。普通の人間のちょっとした異常を見逃さない。

ねえ、ねえと、らっきょのような血色のわるい小さな顔を、右の旦那に向けたり、左の私に傾けたりして、見境なく熱に浮かされたようにしゃべり続け、しばらくはとまらなかった。

読めば読むほど、いろんなことを眺めている女性で、少し怖いかなと。自分など、いつもぼおっとしているスキの多過ぎるタイプなので、いろいろと見透かされる恐れを感じる。

年末、お寺の護摩木札でも

神仏に向かって、家内安全……と願う人は、まずまず安定した仕合せな人といわなくてはならない。事がさしせまっている人は、もっと具体的だ。

と推測し、事がさしせまっている例として

「一の瀬さんから電話がありますように。一の瀬さんと結婚出来ますように。よし子」

を上げ、トイレに書かれた結婚についての落書きへと話を展開するのであった。

そして最後「14 あの頃」の冒頭で、

敗け戦ではあったけれど、このままいつまでも続き、その間に誰も彼も私も、あと先はあっても死んでゆくのだと思いこんでいたら、ある日、思いがけなく戦争は終り、真青な空の下でポカンとしてしまった。

と振り返るのである。

写真や文中で同行するHとは娘の武田花さん。ご本人は1993年に67歳で亡くなっているが、今の世の中に生きていたら、きっと日々面白いツイートしてくれるだろうなと思ったりする。

この1冊でした

武田百合子全作品(6) 遊覧日記(ちくま文庫)

 

武田百合子全作品(6) 遊覧日記(ちくま文庫)