鹿の写真を撮るのも楽しい
この小説は、前科者のムース(大じか)・マロイがかつての恋人を探しにくるところから始まる。大柄な男性を大きな鹿に例えているのだが、あいにくそういう写真は撮れなかったので、ここはバンビを卒業した大きさの鹿で…
本のタイトル | さよなら、愛しい人 |
著者名 | R・チャンドラー |
訳者名 | 村上春樹 |
出版社 | ハヤカワ文庫 |
名作「ロング・グッドバイ」による既読感が
自分は先に村上訳「ロング・グッドバイ」を読んでいたので、実はこちらを読みつつ妙な既読感を拭えず。
原作は、こちら(1940年)が先で次に「ロング・グッドバイ(1953年)」だけど、村上訳は「ロング・グッドバイ」が先で、次にこちらだったらしい。
村上氏は読み親しんだ作品を訳すのが楽しいとあとがきに記してあったが、この作品は例え話や皮肉も多く、読者は「で、著者が言いたいことは?」と謎解きをしている感覚もあった。
ハーヴァードの卒業生だろう。仮定法の使い方が見事だ。足の先っぽがどうにもむずむずした。しかし私の預金残高は、水面下で必死にあひるの水かきのようなことをしている。
ひどいと、つい本題から逸れてしまう気もしたのだけど、書いている方は楽しそうな気もした。
ここでネタばらしをするつもりはないので、ちょっと印象に残った女心を引用しておく。
「どうしてかはわからないけど、あなたのことが気に入ったのよ。とても気に入った。でも必要とあらばすんなり忘れちゃえる。これまでだって何度も、その手のことはうまくこなしてきたんだから」
100%ワルとは言い切れず、主人公私立探偵のマーロウが打算抜きで追いかける男主人公、その男主人公の相手となる純粋そうだけどワルな女主人公、「ロング・グッドバイ」との相似形も多いと思ったが、女主人公が「気に入った。でも必要とあらばすんなり忘れちゃえる」と放つところが、大きな相違だった。
さて… この女主人公の結末は?
両作品とも(かなり)村上氏ワールドを構築していたと思う。それだけに、比較をを楽しみたくて清水俊二訳も読んでみたいな。って、積んでる本も沢山あるので、生きているうちに、そこまでたどり着けるか?
「ロング・グッドバイ」のギムレットとは異なり、こちらには、名セリフがなかったのが残念だったかな。
しかし、女主人公の善悪の深さを思うと、自分はこちらの作品の方が好きかも。