明治生まれの女流作家「第七官界彷徨」で第六感の先にある第七感を考える

いつからか、お名前だけは存じていたが、どのような方か存じていなかった。wikipedia をみると、1896年(明治29年)生まれで1971年(昭和46年)にお亡くなりだから、自分の祖父母時代の方らしい。

作家活動は短かったが、今なお斬新さを失わぬ彼女の作品は、近年になり再評価が進んでいる。

ということであり、この度、機会あって読むことができた。

本のタイトル第七官界彷徨
著者名尾崎翠
出版社河出文庫
この写真にちなんで、こちらの文庫を紹介したい。

画像は屋久島で撮影した苔ツアーで巡ったときの1枚で、この作品のなかでも第七感をめぐる過程で植物研究者である主人公の次兄が苔の研究に言及するくだりがあり、それに因んで選んでみた。

第六感の先をゆく第七感をめぐる話

章立てなしだけど、著者による説明も含められていた。

  • 第七官界彷徨
  • 「第七官界彷徨」の構図その他

冒頭は

よほど遠い過去のこと、秋から冬にかかえての短い期間を、私は、変な家庭の一員としてすごした。

と、割りと自然な感じで始まっていた。個人的にはもっとSFぽいものかと勝手に想像していたが、読了してみれば、もう少し感覚に響かせたいような内容だったかも。

植物研究者である次兄が語る。

「植物の恋愛で徹夜した朝の音楽というものは、なかなかいいものだね。疲れを忘れさしてよろこびを倍加するようだ。音楽にこんな力があるとはおもわなかったよ。(略)」

植物とか動物を媒介し、人間の感性を分析する着目点は面白いかも!と思った。

第七官に響く詩を模索する女主人公、そして精神医である長兄が語る。

「人間が恋愛をする以上は、蘚(こけ)が恋愛をしないはずはないね。人類の恋愛は蘚苔類からの遺伝だといっていいくらいだ。(略)人類が昼寝のさめぎわなどに、ふっと蘚の心に還ることがあるだろう。(略)あれなんか蘚の性情がこんにちまで人類に遺伝されている証左でなくて何だ。(略)」

屋久島のツアーでも思ったけど、たかが苔かもしれないけど、意外に人って苔に癒されているのかもと思う。そして、著者は主人公に次のように語らせて一応まとめている。

第七官というのは、いま私の感じているこの心理ではないであろうか。私は仰向いて空をながめているのに、私の心理は俯向いて井戸をのぞいている感じなのだ。

なお、著者自身による説明では、

しかし私はやはり、もともと円形を描いて製作された私の配列地図に多くの未練を抱いています。今後適当な時間を得てこの物語りをふたたび円形に戻す加筆を行うかも知れません。

文庫1冊とは言え、長さは中編小説のようなボリューム。個人的には、もっと重量級で読みたかった気持ちもあるけど… テーマがテーマだから、これくらいの長さでエッジを効かせた方が面白く読めるかな。時も経れば、著者の感覚も変わってゆくだろうから、加筆されたものも読んでみたかったよね。

お茶の水女子大学教授・菅聡子女史による解説で語られているように

昭和初期のモダニズム文学、アバンギャルド文学を体現するようなこの新鮮な感覚が、平易なやさしい言葉と、それを異化するような、(略)モノたちの連繫によって語られている。

だんだん遠くなる昭和を、再び身近に感じたい。

この1冊でした(Amazon)