「金魚繚乱」岡本かの子


マニアに教えて欲しい、金魚と錦鯉の魅力の違いは?

金魚で有名なところだと、江戸川区奈良県大和郡山市を知っているが、ここ本郷の金魚坂には1店舗だけど頑張って営業を続けているところがある。

この写真にちなんで、こちらを紹介したい。
岡本かの子」(ちくま文庫)より「金魚繚乱

どうして金魚を題材したのか気になる

岡本かの子女史は、あの太郎氏(麻生太郎ではない)のご母堂である。あの息子にこの母ありではないが、結構繊細&ビビッドな小説を書いている。

「繚乱」とは「入り乱れるさま」という意味の言葉らしいが、怪しくてそそられる。自分好みの言葉使い、タイトルがいい。

舞台は金魚坂のある文京区本郷かな?と思っていたが、今回改めて読んでみると「東京の山の手」と書かれているから、どうもあちら(麻布)の方らしい。彼の地で盛んだった時代があったのだろうか。

この小説は、主人公・復一が幼馴染でもある得意先の令嬢・真佐子を金魚でオーバーラップさせ、人生を金魚の飼育に振り回される顛末を描いているもので、結末は… 意外に救われる。

その無技巧の丸い眼と、特殊の動作とから、復一の養い親の宗十郎は、大事なお得意の令嬢だから大きな声ではいえないがと断って、
「まるで、金魚の蘭鋳(らんちゅう)だ」
と笑った。

画像が蘭鋳(らんちゅう)だと思う。

奈良県下の郡山はわけて昔から金魚飼育の盛んな土地で、それは小藩の関係から貧しい藩士の収入を補わせるため、藩士だけに金魚飼育の特権を与えて、保護奨励したためであった。

復一は視察で訪れるのだが、かの子女史、意外に史実を忠実に記している。

「古老の話によると、旧幕以来、こういう災害のあとには金魚は必ず売れたものである。荒びすさんだ焼跡の仮小屋の慰籍になるものは金魚以外にない。(略)」

盆栽にしろ、菊にしろ、錦鯉にしろ、ハマる人はハマる。

彼の望む美魚はどうしても童女型の稚純を胴にしてそれに絢爛やら媚色やらを加えねばならなかった。そして、これには原種の蘭鋳より仕立て上げる以外に、その感じの胴を持った金魚はない。復一のこころに、真佐子の子供のときの蘭鋳に似た稚純な姿が思い出された。

かの子女史の文体は、結構豪華仕立てな雰囲気がある。むかしの人の文章は、読みにくさも伴うが漢文調(漢字多め)で格調高い。

他にも鮨とか泥鰌(どじょう)を軸に、男と女が抱く人間の執拗な思いなど、人としての始末の悪さを思い起こさせる小説がある。女史独特の小説、短編だから読める話かなとも思う。短編だからこそ、その鋭い切り口が鮮やかで、こういうわかりやすい題材が生きているかなと。

この1冊でした

岡本かの子 (ちくま日本文学)

 

岡本かの子 (ちくま日本文学)

 

手取り早く、青空文庫でも読める。自分はどうも電子書籍はいまひとつしっくりこないから、紙で読めるものは紙で。