「死の泉」皆川博子

日本人著者によるナチスミステリー、ヨーロッパは複雑だ。

カバーイラスト/横尾龍彦
カバーイラスト/横尾龍彦

文庫概要

タイトル死の泉
著者皆川博子
出版社ハヤカワ文庫

カバーイラスト/横尾龍彦
カバーデザイン/中島かほる

文庫本で650ページ、久しぶりに圧巻な読み応えであった。

内容紹介

ちょっとした二重構造?になっているのだが、自分はその辺りは意識せずに読み進めてしまった。

圧巻すぎるので、軽く要約を文庫本から引用してしまうと…

第二次世界大戦下のドイツ。私生児をみごもりナチの施設<レーベンスボルン>の産院に身をおくマルガレーテは、不老不死を研究し芸術を偏愛する医師クラウスの求婚を承諾した。が、激化する戦火のなか、次第に狂気をおびていくクラウスの言動に怯えながら、やがて、この世の地獄を見ることに……。(略)さまざまな題材が織りなす美と悪と愛の黙示録。吉川英治文学賞受賞の奇跡の大作!

結末に向けて二転三転ではないけど、人間のどす黒さが出てくる出てくる。生きるだけでも必死な時代(状況)なのに、そこでさらに強者は弱者へ追い打ちをかけるのだから、立場が反転したときのリバウンドは大きくなって小説は盛り上がってしまう。

さて、目次は

  • 死の泉
  • あとがき
  • 解説/北村薫
  • 謝辞
  • 主要参考文献

二重構造というのは、ドイツ語の原書がありその訳書という位置づけでの構成になっている。

  • 「死の泉」Die spiralige Burgruine
  • ギュンター・フォン・フェルステンベルク
  • 野上晶=訳

架空ですが、原書名に著者・訳者。以下のような仕立てになっている。

  • Ⅰ 生命の泉(レーベンスボルン)
  •  ドキュメント
  • Ⅱ ミュンヘン
  • Ⅲ 城
  •  あとがきにかえて

国が地続きで続いていると、こういう↓ことも起りやすいのかなと。

ナチス時代の残虐のつぐないの意味をこめたものだが、もう一つの理由もある。戦時中、国外に、ドイツとともに戦ったパルチザンがいた。ソ連のウクライナだけでも、ドイツ側についてボルシェヴィキに抵抗したロシア人が五十万人近くいた。戦後、彼らをボルシェヴィキにまかせれば、虐殺されるのは自明である。基本法第十六条のおかげで、およそ百万の外国兵が、ドイツに亡命して救われている。

2022年現在のウクライナまで、続く話なんだなと改めて実感。たまたまタイムリーな話題に連携しているだけに、刺さってしまった。

以下の発言は、上記文庫本の要約でいうところの医師クラウスの言葉であるが… 先日読んでいた米原万里女史の著書の文章を思い起こさせられる。

「アメリカの民主主義という欺瞞性のなかで暮らすのに、私はつくづく、いやけがさした。民主主義。あれは、頭脳は針の先ほどで、図体ばかりでかい古代生物だ。私は帰国を決意した」

民主主義がベストと言うつもりはないけど、地続きのヨーロッパはやはり大変だなと。だけど、その分いろんな物語があるのかなと。

それにしても、日本人の著者がドイツ人のようなストーリーを描いてしまうことに驚いた!1900年代のドイツおよびその近隣諸国は大変だったなと。

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こちらの表紙も素敵だ。