「掌の小説」川端康成


仄暗いのも明るいのもいい

季節外れだけど、地味だけど地味に楽しむ線香花火は好き。

わいわい賑わう花火より、静かに弾ける感じが好き。安いのは暗いけど、それはそれでまた好きだったりする。

この写真にちなんで、こちらを紹介したい。


掌の小説川端康成新潮文庫

日本人初のノーベル文学賞受賞者の審美眼とは?

むかしから川端康成氏の世界にも興味があり、この本を読むのも2度目なのですが、前回は全くわからず…。掌編なので、数ページのエッセンスだけで読む120作品ほど、氏の若かりしき頃の習作?秀作?集です。

その後、「伊豆の踊子」「雪国」を読んでみて、何となく何かを感じられるようになり、改めてこの掌編を読み直してみた。で、自分が総括するのも厚かましいのですが、要するに何かモチーフや特定の舞台があり、そこで「儚さ(はかなさ)」みたいな感覚を表現している。

例えば、舞台は上野広小路の露店(花火屋と眼鏡屋)のお話

思い切って、君の店に並んでいるあずま牡丹とか、花車とか、地雷火とか、雪月花とか、三色松葉とか言う花火に一斉に点火して、寂しくなった夜の街に美しい華火を咲かし火の国にしてみてはどうだ。そうなれば意外にも眼鏡屋なぞは吃驚仰天魂消てすっ飛びながら逃げて行くかもしれないよ。(「夜店の微笑」)

モチーフの使い方いい。

手前味噌ですが、線香花火のご紹介。
yfroot.hatenablog.com

他、読んでいて気になったのは、舞台が温泉宿であること多々。「伊豆の踊子」や「雪国」もそうだし、それと小動物(カナリヤとか金魚とか)とか特定のモチーフ使いが巧み。そこに、イメージ(というより、悪く言えば妄想)を繰り広げている。

山の温泉宿の裏庭に大きい栗の木がある。お信地蔵はその栗の木の蔭にある。

と始まり、

色町のなま温かい欲情が三つ児の時からこの娘の体にしみ込んで肌を濡らしていたに違いない。(略)彼は娘の膝頭で温まりながら眼をそらして谷間に浮んだ遠い富士を見た。それから娘を見た。富士を見た。娘を見た。そして、久しぶりに色情というものの美しさを感じた。(「お信地蔵」)

ほんのりHな感じも多い。確かに、今でこそファミリーでも楽しめる温泉増えましたが、耳で知るむかしの温泉宿は年寄りの湯治やちょっと訳ありな… イメージを勝手に抱いてしまう。

まとまりつかなくなりましたが、この1冊を読んでみると、川端康成氏のエッセンスを掴めてこれて、他の名作・大作も楽しめるかも。一応日本人初のノーベル文学賞なので、日本人として… ではなく、純粋にただただ川端氏の作品は、谷崎氏と同じほど好きなのでした。

この1冊でした

掌の小説 (新潮文庫)

 

掌の小説 (新潮文庫)

  • 作者:川端 康成
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1971/03/17
  • メディア: 文庫