「ホワイト・ジャズ」J・エルロイ


昭和の空気を残しているクリーニング店

店主の矜恃が気になる商店街のとあるクリーニング店。

かなり無理クリだが、クリーニング→薬品→麻薬というつながり、この写真にちなんで、こちらを紹介したい。

ホワイト・ジャズ
J・エルロイ(文春文庫)

エルロイLA四部作もいよいよラスト

結論から申してしまうと、単語や記号(=など)を列挙するなど文体に特長が出てきて、それがまあいい感じに切迫した雰囲気を醸し出し、ラストにふさわしい締めくくりだったかなと。以降は、LA四部作から、アンダーワールドUSAと全米にノワールは展開していくのだよ。

前作「LAコンフィデンシャル」で、やや繊細な部分も残した主人公エドは、

明晰で冷酷。五三年、黒人四人を撃ち殺すーナイト・アウル事件にケリをつけた。

という冷酷な人として登場。

LAコンフィデンシャル」の紹介はこちら。

https://www.1book.jp/entry/2018/04/21/213432www.1book.jp

狂ったやつに逆らえる人間なんていませんからね。(略)トミーってのはほんとに狂ってます。あいつは恐ろしい魔力を持っているんですわ。

エルロイに登場する殺人鬼は基本みなこういう感じ。ただ、魔力が登場人物によって異なるので、そこが少し読み応えがある。ちなみに、トミーは表向きクリーニング店(事実上は麻薬の元締め)の息子である。

そして、エドに代わっての主人公である刑事のクライン(エドの部下)は、

「あんたは恐しく欲が深い。だが、そんな間抜けじゃない」

として描かれる。欲が深く、警察官だけど悪。だが… みたいな。

時間が狂ってしまった。
胸が痛んだ。
朝刊がドアに当たる音ー(略)
歩いて外に出た。夜明けー(略)
ルガーをゴミ缶の中に落とした。
服をととのえたー考えるな。やるだけだ。

このような、すこしポエティックな文体が多い。そもそもは、小説の分量を減らすのが目的だったらしいが、それなりに前のめりになって小説世界に(自分は)ハマれた。

そして、アメリカ人には必須?のロマンスもあり、ロサンジェルスの悪徳警官(クライン)との会話

「なぜ、わたしをトラブルから遠ざけるというトラブルに自分から巻き込まれるの?」
「スタイルってものを評価するからさ」
ギャングやおまわりや自分自身の暴力的な過去から逃げまわるロサンジェルスの悪徳警官の告白だ。

キザだが、エルロイ・ワールドにのめり込んだ読者は、こういうセリフに刺されてしまう。ここは「スタイル」と訳して欲しいところ。あえて訳せば「こだわり」みないな感じかもだけど、そうしてしまうと会話がダサくなる(気がする)。

全作終わって勝手に総括すると、この「ホワイト・ジャズ」で前作までの伏線がそれなりに(やっぱり)収束されていた。タイトルも自分好みだが、正直、ジャズってほどジャズは生かされてないと思う。よっぽど「ビッグ・ノーウェア」の方がジャズが生きている。

もし4部作のうちどれかを再読するのであれば(また読むのか、自分!)… 個人的にはやっぱり「LAコンフィデンシャル」だと思う。原文は無理かな。

訳者の佐々田雅子女史は、カポーティ「冷血」も訳されている方で、wikipediaによればハードボイルドが得意らしいが、つまり犯罪(ノワール)系が得意なのかもしれない。彼女が訳す作品は気になるよ。

それでも、しばし重量級エルロイ・ノワールワールドが続いたので、漱石などをじっくり読みたい気分である。

この1冊でした

新装版 ホワイト・ジャズ (文春文庫)

 

新装版 ホワイト・ジャズ (文春文庫)