英国人ノワール作家が描いた「TOKYO YEAR ZERO」終戦直後の病める日本人たち

日本の終戦直後に起こった物騒な事件(連続強姦殺人事件)がテーマとなって、他にも黒々としたモチーフが絡まり戦争にまつわる多くの黒い話に救い無しの虚しさを感じさせられる。極端に発想を飛躍させてしまうと、その救いの無さに、芥川龍之介を敬愛するイギリス人は魅了されているのだろうか。

以前、同じ作家でブリティッシュ・ノワールを読んだ

アメリカのエルロイと異なり、イギリス国内に疎い自分はブリティッシュ・ノワールの四部作を完読できずにいた。が!芥川龍之介を敬愛するこの英国人作家が、今度は日本を舞台にノワールぶりを展開するというから、読んでみた。

本のタイトルTOKYO YEAR ZERO
著者名D・ピース
訳者名酒井武志
出版社文春文庫
この写真にちなんで、こちらの文庫を紹介したい。

画像は新宿の花園神社に奉納された狛犬、今回の小説の舞台に新宿は登場しないものの、悪いことをする人々を無言で凝視する視線に自分は勝手なシンパシーを感じて選んでみた。

テーマはシンプルだけどネタが多い

「1945年(昭和20年)から1946年(昭和21年)にかけて、東京都とその周辺で発生した連続強姦殺人事件」で話は始まるものの、新橋界隈から足立方面やら主人公が住む三鷹など話が展開される土地は多く、警察、軍隊、憲兵隊、GHQ、ヤクザ、病院、そして非力な市民と登場人物の属性も複雑だった。

構成は以下のとおり。

  • プロローグ
  • 第一部 肉の門
  • 第二部 涙の橋
  • 第三部 骨の山
  • エピローグ

多くの材料が存在するというのは、それだけ複雑な時代だったと変に納得した。

実際、事件の捜査に携わる「わたし」と語る主人公の実態も曖昧で、どんなコネがあるのかも不透明でストーリーを引っ張る。

藤田は本来なら自分がこの部屋の長になるべきだとわかっていた。(略)しかし藤田はわたしの家族がコネを持っていたのを知っている。そのコネがわたしを生き残らせ、ここでの仕事をあたえたことをーー

同じ言葉を繰り返す独特な文体は、ストーリー性よりもポエティックな印象を受けた。と思う反面、第十章の冒頭では

松沢精神病院は世田谷区と杉並区の境にあり、三鷹にあるわたしの家と北沢にある室田の家の中間にある。君はあの場所をうんざりするほど見ているはずだが……

「精神病院」という理性では通用しない人々が収容される施設が登場し、ストーリーの世界へ。しかもその場所は、自分には身近に感じられる土地だけに気がそそられる。

正直、ジェットスターに乗って「キャーキャー」と恐怖を煽られたまま、一気にゴールに着地してしまった。その結末に救いがあったとは言い難いけど、こういう複雑な時代にのほほんと生き残れる神経を持てる人って… 複雑な読了巻な味わいつつ、

著者注
 小平義雄は宮城刑務所で一九四九年十月に死刑執行された。
享年四十四。

実際にあった連続強姦殺人事件の顛末を載せて終わる。

解説は(編集部)となっている。

上田秋成と泉鏡花の流儀で、ジェイムズ・エルロイやジム・トンプスンのようなノワールを書く。そんな構想が本書の独特の語り口を生み出した。一見すると幻想と狂気に支配されたものに映るかもしれないが、しかし、ここにはちょっとしたトリックが仕掛けられている。  

この内容を英語のままで読むと、どんな読了感があるのだろうか。病んでるストーリーが多いけど、ノワール小説はたまに読みたくなる中毒性が強いな。

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