「ハムレット役者」芥川比呂志

作家の息子ではなく、あくまでもハムレット役者の視点でのエッセイ集

講談社文芸文庫の表紙

以前、弟(龍之介三男、作曲家)エッセイをガッツり読み、今回兄(龍之介長男、俳優)を読む機会に巡り合い、芥川家の人々の雰囲気をぼんやり感じられるようになった(かも)。次は妻の思い出話を紹介する予定。

文庫概要

タイトルハムレット役者
著者芥川比呂志
編者丸谷才一
出版社講談社文芸文庫
この写真にちなんで、こちらの文庫を紹介したい。

副題として「芥川比呂志エッセイ選」とある。

編者は丸谷才一氏、氏の守備範囲の広さを実感させられまする。講談社文芸文庫なので、表紙は… よく言えばシンプルなもの、そしてお値段がちょっと張るもの。

内容紹介

目次
Ⅰ ハムレット役者(8作品、60ページほど)
Ⅱ 先祖のことなど(2作品、8ページほど)
Ⅲ 父と母(10作品、40ページほど)
Ⅳ 自伝の材料(38作品、210ページほど)
解説的対談 丸谷才一・渡辺保
年譜 芥川瑠璃子

以下、内容をば紹介。

Ⅳ 自伝の材料

「銀座・昭和十六年」

二階が画廊になっていて、ときどき、すごい展覧会をやる。ボナールや、ルオーや、ドランや、ブラックが出る。そういう時に、誘い合せて一緒に行くのは、たいてい同級生の堀田善衛で、べつに仏文の学生だからフランスの美術に関心があるという次第ではなく、いつでも、何か、しっかりしたものにぶつかっていたいという気持ちが、堀田にも私にもあったせいである。

戦前だけど、この「何か、しっかりしたものにぶつかっていたいという気持ち」が若さの焦りみたいでいい。アラフィフの今の自分は、本当に浮遊している。

「映画の後」

映画館から出ると、町が、何ていうか、色がなくなったような、影になったような、取りとめがなくなったような、まあ白けた感じになっている。いま見た西洋の映画で、こっちはいっぱいになっているから、釣合いが取れなくなっちまってる。お茶でも飲もうか、というのはつまり映画の印象を深めながらそのバランスを回復するためで、当時銀座には、そういう時にはおあつらえ向きの、手ごろな店がほうぼうにありました。

「リリアン・ギッシュ」

「老いの花」というようなものではない。芝居にかぎらず、日本のすぐれた老女の藝には、枯淡があり、そこを通りぬけた妖しい華やかさがあり、奥行の深い沈静があり、夢のような軽みがある。しかし、(略)

「不条理な装置」

先ごろパリでは、舞台を浅い水槽にして水を張った装置が評判になった。役者は水の中を歩きながら演じるのである。
 こういう新傾向は、新しい劇場空間の模索、新しい演劇原理の追求と表裏一体をなしているので、これからもいろいろと不思議な仕掛があらわれることだろう。

編集の傾向もあったのだろうけど、全般的に役者としての著者の側面が色濃く感じられる内容だった。三男・弟のエッセイに比べ、育った環境や家族の思い入れも薄いかなと。

家族の話を読みたい訳ではなかったので構わない。タイトルに削ぐわず、役者としての思い入れの話をいろいろ読むことができてよかった。

この1冊でした(Amazon)

講談社文芸文庫のラインナップは攻めているが、お値段も攻めている。