「料理心得帳」辻嘉一


「木守」最後に残る1個はその木を守る柿

どの柿が木守(きまもり)になるのかな?

料理人による食の話は奥が深いよ。

本のタイトル料理心得帳
著者名辻嘉一
出版社中公文庫
この写真にちなんで、こちらの文庫を紹介したい。

段々と食材の本当の味がわからなくなる

子どものころは食べることが大嫌いで、今でも好き嫌いは少なくないが、いつからか食べることばかり考えているし、食のエッセイを読むのは非常に好きだ。作家や芸術家は敏感で面白いけど、やっぱり一番なるほど!と思わせてくれるのは、料理人によるものかと。

様々なところで発表したものを集めたとかで、1つ1つは短く、ざっくり次のテーマごとにまとめられていた。

  • 味のこころ
  • 料理のおしえ
  • 滋味雑記
  • 年輪
  • うまいもの
  • 味の今昔
  • 食説法
  • 加減さまざま

滋味雑記

こういう一文を読みたいのである!

が、問題はいつまでたってもこの「勘」が発展しない自分の資質なんだなあと。

日本料理の味加減は、自分で決めるもので、それも目分量で決め、舌で確かめていく習慣をつけてください。四季のうつりかわりとともに、味覚も徐々に変化していくのですから、自分の舌の感度が一番たしかなお加減を決定するのです。したがって、目分量は「勘」的な要素を育てていきます。

味の今昔

好き嫌いが多い子供だったくせに、自分は魚の粕漬けが好きで、今でもこういう話を読むと胸がキュンとなる。

酒の粕は、板御神酒(いたおみき)という古風で優雅な別名があります。
 昔の板御神酒は清酒の匂いが漂い、そのままを金網で焼いて、砂糖を少々つけて食べると顔がほてり、体があたたまる感じでした。

「味の今昔」は、もともと書かれたのが1982年という40年近く過去だから、文中の今も現代からみれば十分昔なのだが、文中の昔は現代からみれば、もう昔々になる。

それだけに、どの話も昔話を読んでいる感だけど、今ほど氾濫?してない昔の食は本当に情緒豊だなと思う。次のような話は大好きだ。

柿の木を守るように一つ取り残された柿の実の風情にたとえられた「木守(きまもり)」は、高松城の松平家の家宝として伝わり、今もって高松の名菓として、その名が残っております。

加減さまざま

むかしの人は良いこと言うなと。近頃、自分はすっかりこういう感覚を失いつつある気がして嫌だ。

「一度、咽喉を通ってしまえば、二度と取り出すことはできないのだから、食べものには十分注意すべきだ、と父は常々申しておりました」
 と、幸田文先生から露伴先生のお言葉をお聞きしたとき、まことにもっともなことだと深く感銘いたしました。

この1冊でした

料理心得帳 (中公文庫BIBLIO)

 

料理心得帳 (中公文庫BIBLIO)