「葡萄酒の夜明け」開高健

葡萄酒と鶯色の対比がいいなと

ベトナムに憧れていたとき手にした作家だったけど

かつてベトナムを感じてみたい!と読んだ作家が、デュラス(ラ・マン)と開高健だった。開高の作品は消化不良のままであったが、オーパ!は面白く読めた。それ以来、釣りが好きな人の食エッセイって、割と面白いと思っているから、この1冊に出会ったときは読まずにはいられなかった。

本のタイトル葡萄酒色の夜明け
著者名開高健
出版社ちくま文庫
この写真にちなんで、こちらの文庫を紹介したい。

ヘッダー画像、赤ワイン写真がこれしかなかったけど、ワインよりグリンピースのポタージュの方が目立っている。

エッセイだけでなく人生もうかがえるラインナップ

言うに及ばずだけど、食以外にも旅、男と女、花などにも敏感な方と思った。

  • 1 初めての”自己紹介” ーー若き日の手紙から
  • 2 都市で呟き、荒野で叫ぶ  ーー「足」で書いた断章
  • 3 あぁ人生。思った通り? ーー飲んだ・食べた・笑った
  • 4 「男」だけの世界 ーー仕事&遊び&冒険
  • 5 「女」がみえる場所 ーー人間を造るもの
  • 6  旅を書いた ーー”定点”をもつ重さ
  • 7  わが人物誌 ーー人の世の海を渡る「舟」
  • 解説「人生ハ矛盾ノ束デス」小玉武

2 都市で呟き、荒野で叫ぶ  ーー「足」で書いた断章

「荒野の青い道」という作品には、あるベトナムのえげつない中佐について語っていて、中佐が埋葬されたであろう軍墓地についての語りがある。

この国に独特の習慣であるが、墓ではときどき《紙の花》(ブーゲンヴィリア)がコンクリート蓋の四角い穴に植えこまれることがある。それは根を張り、棺をやぶり、死者を吸って、みごとな満開を見せる。

ベトナムで人の生死を多く見た開高氏、人が死んで自然に昇華する瞬間を花に見立ている感性がいいなと思った。

3 あぁ人生。思った通り? ーー飲んだ・食べた・笑った

旅や食に敏感な氏が、松尾芭蕉の俳句を通して考察した「芭蕉の食欲」も面白く読めた。

こうして一瞥したにすぎないけれど、どの句を見ても、詠まれているのは大根の辛さであり、白魚の可憐な澄明さであって、その物自体の美質を簡朴に、直下に訴えることに力がそそがれたために、料理らしい料理は光景も香りもほとんど読みとることができない。

結果として、そこに食の醍醐味は感じられない!とスパっと切った結論も妙に納得。

6  旅を書いた ーー”定点”をもつ重さ

「旅は男の船であり、港である」で書かれたこの内容は、何かからの引用か、氏の言葉かは不明だけど旅の本質を突いている!と自分にもこの感覚を取り入れたいと思った。

こんな小話がある。
 ある男が空港の片隅で、スーツ・ケースの上に腰かけて蒼ざめているんで、どうしたんですかと声をかけたら、オレはこの国へ旅行に来たんだけれども、体は着いたのに心がまだ着かない、それが追いついてくるのを待っているんだと答えたーーっていうんだ。

これまでも、それなりに開高作品を読んでいるが、またいろいろ(自分も年齢とったし)読み改めたいと実感した。

この1冊でした(Amazon)