「東慶寺花だより」井上ひさし


町中至る所で見かける紫陽花の季節

2017年、今年は例年より紫陽花の盛りが遅い気がしている。これは昨年の6月初めに撮影したもの。ちょっと色(また)盛ってみた。

この写真にちなんで、こちらを紹介したい。
東慶寺花だより井上ひさし(文春文庫)

鎌倉東慶寺を舞台に花を絡めたお話で

井上ひさしの著書は読んだことなく、ようやく初めて読んだのがこちら。梅雨っぽい小説を読みたいと探すうちに、梅雨ではないが季節と花を絡めた設定に刺さり読んでみた。

この季節に相当する「花菖蒲の章 おきん」では、腐れ縁だった亭主(重蔵)とようやく縁が切れ、新しい亭主(清市)と人生やり直そうとした矢先、腐れ縁亭主に絡まれる。しかし、新亭主は早速打ち返しに回ってくれ、女房(おきん)の立場からすれば嬉しい限り…

「めでたい日だと思って、さっきまでは我慢していたが、いまのおきんはおれの女房だ。よくも云いたい三昧の悪口を並べ立ててくれたな。礼を云うぜ」

井上ストーリーはなかなか緻密に練られているものが多い。

「花だより」となっているが、各章とも独立性が高く、どこからでも読める。で、この花菖蒲の章も爽快な結末を期待して読み進めていくと

ひとつ、ひれつは重蔵と清市
ふたつ、ふたりで企んで
みっつ、見かけは純情そうに
よっつ、よからぬ恋をした
いつつ、いつまで化果せるか…

と、なんと腐れ古亭主と新亭主は二人で企み、おきんを元の家へと引き戻す画策をしていた(怒)!

これには読者の私まで裏切られた気分になり、男不信になる。

それからおきんさんはゆっくりと廊下に坐り込んだ。
簪の落ちたあたりに風の道でもあるのか、白い花菖蒲の一群れが大きく揺れている。

小説空間の雰囲気はいいのだが、この章(個人的には)不満が残っている。

この1冊でした

東慶寺花だより (文春文庫)

 

東慶寺花だより (文春文庫)