紅葉は濃く淡くこきまぜ、霜枯れの草が黄ばんで美しい
紅葉の美しさは、やっぱりいいなと。
Nikon D5300 with 35mm f1.8
源氏物語も色彩豊かに光景や衣装が語られるようになってきました。
この写真にちなんで、こちらを紹介したい。
「新源氏物語(中)」田辺聖子(新潮文庫)
俄然面白くなったのは紫式部の筆が乗ってきた?
おせいどん(田辺聖子女史)の訳も調子が出てきたせいかもしれませんが… 関西弁のセリフってありなのでしょうか。
なお原典の巻序列(全54帖)、タイトルはだいたい、地名だったりそこに住む女性の名称だったりするけど、言葉が大和言葉?らしくて響が良い。
(上巻)
- 第01帖 桐壺(きりつぼ)ー略ー
- 第02帖 帚木(ははきぎ)ー略ー
- 第03帖 空蝉(うつせみ)
- 第04帖 夕顔(ゆうがお)
- 第05帖 若紫(わかむらさき)
- 第06帖 末摘花(すえつむはな)
- 第07帖 紅葉賀(もみじのが)
- 第08帖 花宴(はなのえん)
- 第09帖 葵(あおい)
- 第10帖 賢木(さかき)
- 第11帖 花散里(はなちるさと)
- 第12帖 須磨(すま)
- 第13帖 明石(あかし)
- 第14帖 澪標(みおつくし)
意訳では、適宜流れに乗れない?部分は本文で触れながら、章立てからは省いているようです。
(中巻)
- 第15帖 蓬生(よもぎう)
- 第16帖 関屋(せきや)
- 第17帖 絵合(えあわせ)
- 第18帖 松風(まつかぜ)
- 第19帖 薄雲(うすぐも)
- 第20帖 朝顔(あさがお)
- 第21帖 少女(おとめ)
- 第22帖 玉鬘(たまかずら)
- 第23帖 初音(はつね)
- 第24帖 胡蝶(こちょう)
- 第25帖 蛍(ほたる)
- 第26帖 常夏(とこなつ)
- 第27帖 篝火(かがりび)ー略ー
- 第28帖 野分(のわき)
- 第29帖 行幸(みゆき)
- 第30帖 藤袴(ふじばかま)
- 第31帖 真木柱(まきばしら)
都落ちしつつ、結構楽しく?素敵な女性(明石)と暮らしていた源氏が都に戻り、上昇気流に乗っているのが中巻でした。登場人物は出世魚のように、偉く?なると名称が変わってゆくので、そこを押さえておくのに苦労します。が、そこがまた楽しいのです。
上巻が「起承転結」の「起」に相当するのらな、ここは「承転」な雰囲気があります。
面白くなった要素として、
- 過去に接触ある女性陣が再登場し(一箇所に集めら)新しい住まいへ
- 自分の息子(夕霧)を中心に、若いグループが登場
- 新しい住まいの春夏秋冬の趣、若いグループとの恋の鞘当て
- 少し政治かかる権力の駆け引きも
などで盛り上がります。 正直、上巻だけでは、次から次に新しいキャラの女性に手を出し、このまま54帖続くのか?と心配しましたが、そこは紫式部のストーリー作りの妙か、田辺聖子氏の意訳のうまさかわかりませんが、かなり引力に引かれてグイグイ読めました。
勝手な推測では、紫式部も小説が話題になり、社交界の実態をよりリアルに触れられるようになったのかなと。風景や服装にもカラフルなイメージが喚起されるようになりました。
九月末のことなので、紅葉は濃く淡くこきまぜ、霜枯れの草が黄ばんで美しい。
そして、しばしば主張されるのが、筆跡の美しさ。確かに字には人柄も滲みますかなと。
まだ子供らしさのぬけぬ筆蹟ながら、生い先美しくなりそうな字の、幼い恋の手紙が、つい落ち散って、大人たちの目に触れることがあった。ーーそこが、若さのゆえの不用意なのだろう。
大人たちは、つい落ち散ったラブレターを読んで、若いグループの恋の鞘当てで盛り上がるのです。
この広大な邸の造作もさりながら、庭園の美は贅を尽くしていた。
前からあった池や山も、見どころなきは崩し変え、水の趣き、山の形も改めて、住む人の好みに合わせて造ってあった。
描写も具体的になり、また
そうして右近は語った、源氏の夕顔に対する烈しい熱愛と、そのさなかに死の手に夕顔を奪われた源氏の惑乱と悲しみ。……古い邸の物の怪のおそろしさ。右近も取り乱して、あとを追おうとしたこと……。
「物の怪」って、源氏物語に限らず日本の古典を読む上で重要だなと。要するに、何か(物の怪)に取り憑かれヒステリーになって、ややホラーな雰囲気でも物語は進む進む。
正午ごろ、一同、中宮の御殿に参上する。源氏をはじめ、殿上人はみな座についた。源氏の威勢で、すべておごそかにも華やかな法会となった。
紫の上から御供養として、仏に花が奉られたが、この献花のありさまも絵巻物のようであった。
美少女たち八人に、鳥と蝶の衣装を着せてある。
豪華絢爛に、一方では
「(略)しかし、いいかげんな男の手紙に、すぐ返事をするのは、あまりほめたことではない。大体、女というものは、つつしみなく、感情のおもむくままに、物のあわれを知り顔にしていると、ろくなことにならない。そうかといって、宮や、大将のように、りっぱな男性に、まるきり無愛想に、とりつく島もなく、返事もしないというのは失礼にあたる。そのけじめがむつかしいのだがね……」
男を焦らして、喜ばせる。女は馬鹿でもダメだし、切れ者もダメらしい。
いつの時代でも、セレブの生態話は興味を惹くものだなと。それと、恋の駆け引きではないけど、人と人との付き合い方にも説得を感じるとこも多々ある。
源氏は玉鬘のそばへ寄った。几帳の帷(かたびら)を一幅だけあげると同時に、ぱあっと、何かが光って、紙燭でもさし出したのかと、人々を驚かせた。 それは蛍なのだった。 (略)一瞬、無数の青白い光に浮かび上がった横顔の美しさ、宮のおん目にも止まり、宮は息が詰まるように思われた。
源氏は玉鬘(たまかずら)という、養女として養っている美女を、自分もその気たっぷりでありながら、さらに言いよる男子たちをヤキモキさせるべく、蛍を利用し幻想的に演出するくだりが、微笑ましい。蛍って日本芸術では重要な小道具だなと。
いよいよ下巻は、人生下り&総括の雰囲気になるのかな。中巻は面白くなったけど、よくよく考えてみると、源氏はもはや狂言回しのような立ち位置、その周囲の男女関係が盛り上がって面白かったのかもしれません。