本一冊

すべての積読は一冊の本から始まる

夏には読めない戦争モノ「出発は遂に訪れず」島尾敏雄

お題「この前読んだ本」

表紙:司修

なかなか戦争モノは夏に読めずにおりますが、晩夏から読み始めましたでござる。

島尾敏雄氏とくれば、妻である島尾ミホさんとの「死の棘」が思い浮かぶところだが、かつての出会いやお互いの相思相愛ぶりが透けて感じられる中編集がこの一冊であった。

ラインナップ

  • 島の果て
  • 徳之島航海記
  • アスファルトと蜘蛛の子ら
  • ロング・ロング・アゴ
  • 出発は遂に訪れず
  • その夏の今は
  • 夢の中での日常
  • いなかぶり
  • 春の日のかげり

まあ、いわゆる解説などなど。軍服をまとったポートレートなどもあり、いかに軍服姿は必要以上にかっこよく見えてしまうのも実感。

軽く背景に触れれば、奄美大島終戦間近に生きて帰られぬ特攻隊の隊長として過ごした体験がベースになっている。その滞在中に出会ったのがミホさんで後に結婚します(めでたし)。が、その結婚生活が順風とはなり得なかったのが「死の棘」にて語られている。

なお、表紙や挿絵が、先に紹介した司修氏。武田泰淳作品ばかりでなく、同時代に活躍したせいか島尾敏雄作品も結構あるなと。

引用

最後に文庫本案内文より

「ついに最期の日が来たことを知らされて、こころもからだも死装束をまとったが......」著者は今次の大戦に特攻隊長として奄美大島に出撃した。引き返すことのできぬ死、美しい自然と鮮烈な恋愛。

と、著者の言葉

特殊な部隊に所属はしたが、どんな戦闘にも参加していない。われわれにとって忘れることのできぬ曲がり角の太平洋戦争が、私の精神とからだのどこを通って行ったのかと考えると、あの戦争のことについて「その日」のことを語るには、私はふさわしくないような寂しい気がする。

を拾っておく。

人生(多分)最も楽しい20代にお国のためとは言え、死を覚悟し、生き残ったとは言え、結局死なずにすむということは、残りの人生で感じることがいろいろあっても不思議ではないなと想像する。

この一冊でした

新潮文庫にあるのですな。