本一冊

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「変愛小説集」岸本佐知子編訳

何か変?


海外の翻訳小説を選ぶとき、自分は作者以上に訳者を気にする。そういう本選びをする方、少なくないと思う。こちら岸本佐知子女史は、そういう訳者のお一人なだけに、彼女が選ぶ小説集なら気になるのも当然かなと。

 

文庫概要

 

タイトル 変愛小説集
編者 岸本佐知子
出版社 講談社文庫
この写真にちなんで、こちらの文庫を紹介したい。

 

内容紹介

 

タイトルや編者の好みから推測されるように、歪んだ愛を非現実的なまでに妄想を膨らませた作品が多め。

 

自分は以前(かなりむかし)ニコルソン・ベイカー作品は読んだことあるので、内容は覚えていなかったけど「柿右衛門」というタイトルは記憶に残っていた。改めて読んでみたけど、柿右衛門楽しく読めた。

 

 

どの作品も、ところどころキモとなる(ある意味)笑いがあるのだけど、主人公はそこの部分に真剣なのが全作品の通奏低音なのかなと。それに、変愛だけど基本恋愛だから、それなりにHな場面もある。

 

五月 アリ・スミス

 

あのね。わたし、木に恋してしまった。どうしようもなかったの。花がいっぱいに咲いていて。

 

冒頭からこれ。主人公は口調からすると女性らしいので、そうなると木は男性なのか?と読者(自分)の妄想が膨らむ。

 

まる呑み ジュリア・スラヴィン

 

彼が舌を入れてきた。私はそれを吸った。誰かに見られたってかまわなかった。(略)彼は私を押し戻そうとした。私はさらに強く吸った。彼が悲鳴をあげはじめた。口をあんぐり開け、目玉が飛び出しそうなほどいっぱいに目を開き、彼の舌が私ののどびこに触れ、そうして私は彼を呑みこんだ。丸ごと、ぜんぶ。

 

かなりエロティックな展開だけど、発想が落語っぽくて楽しく読めるのに加えて、夫婦の最もナーバスなネタも絡んで心理小説の趣もある。

 

リアル・ドール A・M・ホームズ

 

僕はいまバービー人形とつきあってる。週三回、妹がダンスの教室に行ってる隙に、バービーをケンのところから連れ出す。

 

思春期の恋心も加わってシリアスになりそうな反面、ここに変愛ぶりのストーリー展開となるのである。

 

柿右衛門の器 ニコルソン・ベイカー

 

そこで試しに、(略)本物の骨灰を二十ポンド取り寄せてみた。

 

柿右衛門って、知らない人は知らないかもだけど、日本骨董で有名な陶器っす。
で、この作品は陶器の原料となる土に骨を混ぜるという点が重要になってくるが、こういう発想は実はあってもおかしくない気がする。それだけに、ここから妄想が膨らむというのも妙な説得力があるかなと。

 

この1冊でした(Amazon