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one book with a photo

麻生太郎氏の伯父が「旅の時間」で流れる時間を描く10編

ニューヨーク・メトロポリタン劇場の幕間

素人が技術もなく撮った室内の写真だけど、赤みがかった妙な雰囲気で悦に入ってる自分。

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このときの演目は「カルメン」だった
SONY Mavica MVC-FD5型

近頃、旅らしい旅をしていない。

この写真にちなんで、こちらを紹介したい。
旅の時間
吉田健一
講談社文芸文庫

著者は吉田茂首相の長男で、麻生太郎元首相の伯父さまに当たる人。

麻生氏も立派な家柄... もう少し教養が感じられるなら素敵なのに。

それでも結局お酒ばかり飲んでいる

自分、吉田健一は「食べものの話」ばかり繰り返して読んでいたが、Twitterの影響もあり、今回小説を手にしてみた。

私に限らずだと思うが、講談社文芸文庫は玄人好みっぽい魅力的ラインナップだが、いかんせんマイナーで部数が期待できないせいか... ややお値段が張る。それでも!欲しくなる→揃えたくなる。

「旅の時間」は、旅に流れる時間を基調として、お酒や人生観、そして交通手段(飛行機、電車、船など)も交え鮮やかなオチで小説に仕立ててあり、どれも新鮮な気持ちで読めた。同じ素材を微妙に味付けを変えて描いていて驚く。

日本と欧米のメジャーな土地を素材として揃えているところが渋い。

各小説から、タイトルを象徴していると思われるキモな一文を選んでみた。

  • 飛行機の中

併し飛行機というのは大概はどこかを立てば何れは行く先に着くものでその途中で多少は変わった人物と一緒になるのは何か劇的なことを望みもするというこの一種の好奇心を満足させるのに丁度よかった。

  • 昔のパリ

「旅先では時間が普通と違った具合にたって行くとお思いになりませんか、」と言った。

  • 大阪の夜

併し東京と大阪では東京をその昔に戻してもやはりどこか違っていて看板の書き方のみならずその字の形までが大阪は大阪であってその上に関西には関東にない何か優しいものが全体の空気にあった。

  • 英国の田舎

日本でも昔のままの地形である所が多くてそれが少しも目まぐるしい変化を食い止めない。

人と話をしていれば吹雪の中の山小屋でも時が過せる。又それがどれだけ贅沢な座敷や洋間でも話に気を取られているうちにはただどこかで相手と話をしていることになるもので坂本が相手の男といるのが東北本線の汽車の中であるのはただ偶然にそうであるだけのことになった。

  • ニュー・ヨークの町

併し煙草一本でもの間が取れれば酒が味だけのものでないことにも注意が行ってそれが夜ならば夜が拡り、そこの卓子にいて本木に話が合うものと食事をすることの意味が改めて感じられた。

  • ロンドン

そのホテルのみならずロンドンの町全体、或はその点ではヨーロッパの殆どが鉄筋コンクリートのような奇妙なものが現れる前から石か或は堅固な木骨の煉瓦作りの建物を並べた場所で地震も洪水も火事と呼べる程の火事も知らずにいれば、又戦争も破壊するのが主であるよりも敵のものを自分のものにするのが目的の計算ずくの行為である時に建物の古び方にもそれだけのものが加って日本ならば江戸時代を通してということになる落ち着きがそこにあった。

  • 神戸

そうすると既に旅に出ていて時間が正確に時間の形を取ってたって行くのが更に時間というものの拡りを得て都側が見ているのは日本にあるものであると共にヨーロッパだった。

  • 京都

ただ京都では時間の持続が断たれたことがなくて遷都という大事件に傍目には思えることも京都の人間には時間のうちで何かと起ることの一つということで片付けられたに違いない。

  • 航海

晩の食事毎に服装を換えて出るというのは兎に角それだけ時間を取って航海の退屈を紛らすことが出来ることになる。

エッセイでは気なならなかったのに、今回辛かったのは一文が長い!こと。それも、複数の言いたいことが句点なしに続くので、どこで話題が転換されているか注意深く読む必要がある。それでいて、会話文「」の最後に"、"を打つから不思議に感じた。

長い一文は構わないが、できれば句点を打って欲しいけど、ひょっとしてそれも健一氏の狙いだったのかな。

吉田健一氏、他のものも読みたい。

そして、久しぶりに旅にも出たい(気持ちと億劫な気持ちと)。

この1冊でした

旅の時間 (講談社文芸文庫)

旅の時間 (講談社文芸文庫)