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太宰治が描く実朝「割れて砕けてさけて散るかも」な気持ち

お題「好きな作家」

わかってみると気になる太宰治

読まず嫌いだった太宰を少しづつアプローチ

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太宰治が滞在した新座敷
Nikon D7200 with SIGMA 18-300mm

これまで読まず嫌いの太宰だったけど、少しづつはまっている。

この写真は、2018年秋に青森へ行ったとき訪れた生家・斜陽館近くにある、疎開時に太宰治が滞在したとされる部屋。

今回読んだ1冊は、太宰治の人生では比較的安定して仕事に打ち込めた戦中に書かれたとされているから、この部屋で執筆したのかな...と期待したら、どうも空振りで、刊行されたのは昭和18年で、青森に疎開したのは昭和20年なのでここでの執筆ではないようだ。

まあ、そこ(執筆した場所)にこだわる必要もないので、

この写真にちなんで、こちらを紹介したい。
惜別
太宰治新潮文庫

しかし、今回自分の狙いは一緒に収められた「右大臣実朝」の方である。

改めて鎌倉という土地へも関心が

「惜別」は魯迅に関わる作品だけど今回は割愛、「右大臣実朝」に限って紹介したい。

文章は「吾妻鏡」だかの古典の引用も入れてツラツラと続くので読みにくいけど、それがまた味だったり。

(略)もしも、その時に御台所さまを遠い京都より求めず、あずまの御家人のお娘の中から御選定なされたならば、この関東にまた一つ北条氏に比肩し得べき御やっかいの御外戚を作るような結果になり(略)

御台所とは奥さんのことで、実朝は地元の娘を娶るのではなく、京の都より妻を迎える。全体にわたって言えることだが、実朝の言動をどちらかとえば好意的に捉えた書き方をしている。

客観的な視点からみて良いのか悪いのかは不明だけど、小説だし、著者の実朝への思い入れを読むのだから、それをいちいち批判するのではなく、そういう男子(実朝のこと)なんだと自分も好意的な気持ちで読んだ。

上の文書も「御やっかいの御外戚」でも、地元の親族に馴染むことなく(自分の母である北条正子のような)田舎娘より、都会の女子を... 選びたいミーハーだったという言い方だってできる。 後に出てくるが、生涯を通して田舎より都会が気になる人物だったらしい。

(略)どうも、北条家のお方たちには、どこやら、ちらと、なんとも言えぬ下品な匂いがございました。そうして、そのなんだかいやな悪臭が少しずつ陰気な影を生じて来て、後年のいろいろの悲惨の基になったような気も致します。

ということで、そんな母親の里である関東武士である北条家を胡散臭く扱う。

そして、それが悲劇の源と言い切るが、確かにまんざら的を外しているわけでもない。

アラ磯に浪ノヨルヲ見テヨメル
大海ノ磯モトドロニヨスル波ワレテクダケテサケテ散ルカモ

引用される短歌をカタカナ交えて紹介しているが、この1首は自分も高校受験だかで触れた覚えがある。

割れて砕けてさけて散るかも」って、記憶に残る。そうか、この句を詠んだ御仁だったのかと思うと、自分も急に実朝へ気持ちが入る。

実朝の言葉は、カタカナを用いて書かれている。

相州とは実朝の叔父(母親北条正子の弟)であるが、著者は全否定はしないものの少し批判的な書き方をする。

それほどの陰気なにほいが、いったい、相州さまのどこから発しているのか、それはわかりませぬが、きっと、人間として一ばん大事な何かの徳に欠けていたのに違いございませぬ。

まんざら的は外していないのだろうが、実朝はそんな北条家の血を引き継いでいながらも、常に自分との間に一線を引く。どうも、源氏である意識は強いが、北条については他人事のように振る舞う。

関東ハ源家ノ任地デシタガ、北条家ニトッテハ関東ハ代々ノ生地デス。気持ガチガイマス。

狂言回しに語らせる実朝の様子も、「高い御品性」と持ち上げる。

(略)風流の御遊興に身をやつして居られても、やはり将軍家には高い御品性がそなわっていらっしゃるのだろうと、(略)

(略)どこやら御軽薄でたより無く、赤すぎるお口元にも、またお眼の光にも、不潔なみだらなものさえ感ぜられ、将軍家の純一なおっとりした御態度に較べると、やっぱり天性のお位に於いて格段の相違があるように私たちには見受けられました。

次の言葉は公暁(実朝の甥)の言葉だが、この甥は叔父と異なり苦労を重ねた人生を歩んできたらしく、自分を卑下する一方で叔父に偏見を抱く。それでも「へんな強さ」と一歩引いた物言いをするのは、やはり実朝は武士のような押しの強さは伴わずとも、人の上に立てるオーラがあったのだろうなと。

「あの人たちには、私のように小さい時からあちこち移り住んで世の中の苦労をして来た男というものが薄汚く見えて仕様が無いものらしい。(略)あんな、生まれてから一度も世間の苦労を知らずに育って来た人たちには、へんな強さがある。(略)」

右大将家とは、実朝の父親で鎌倉幕府の初代将軍でもある源頼朝のこと。当将軍家とは、3代将軍で頼朝の次男であった実朝のこと。

「(略)けれども右大将家は、やっぱり偉い。京都の人から馬鹿にされようがどうされようが、ちっとも気にしてはいないんだ。関東の長者の実力を信じて落ちついていたんだ。どころが、失礼ですけれども、当将軍家は、そうではないのです。とても平気で居られない。田舎者と言われるのが死ぬよりつらいらしいので、困った事になるのです。(略)」

これまで太宰治を読まず嫌いで過ごしてきたが、結構読み応えを感じている!

解説を読むと、太宰自身もノリノリで執筆に精を出していたころの作品とのことで、鎌倉時代に舞台を借りながら、暗に戦争時局への皮肉を織り交ぜていたとか。そこを意識しなくとも、鎌倉幕府1〜3代将軍の置かれた状況と北条家の関わりあいなど、太宰治のフィルターを通した純粋な歴史小説として楽しめた。

ツラツラと続く書きっぷりなので、ストーリーにメリハリは乏しいけれど、鎌倉幕府とその時代や土地への関心を促してくれただけで十分満足(楽しめた)。

少しずづ、太宰治が書きたかったことが、自分なりに感じられつつある。そして、鎌倉に行きたくなっている。

この1冊でした

惜別 (新潮文庫)

惜別 (新潮文庫)

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