「奇跡のルーキー」B・マラッド


夏のナイター神宮球場での一場面

自分で自分の運命は変えられるのだろうか?

純粋にスポーツとしての野球を楽しみたいところであるけど。

この写真にちなんで、こちらを紹介したい。
奇跡のルーキーバーナード・マラムード(ハヤカワ文庫)

ユダヤ系作家描く明と暗の女たちとヒーロー

バーナード・マラマッド という呼び名の方がわかるのでは?

寡黙なユダヤ系作家のデビュー作だが、解説に

ユダヤ人であることの宿命にうたかたのように翻弄されながら人生に耐えているというイメージはここにはない。

とある。ユダヤ人は登場してないが、それ抜きにしても、やっぱり何か明なり暗なり生まれ持った運命から逃れられない登場人物ばかりな気がした。

冒頭から、野球をするため郷里を出る主人公の心境がある。最近自分も年齢重ね、予測できる明日を期待するようになっている。

くるりと向きを変えて、郷里へもどりたくなった。郷里でなら少なくとも明日がどうなるかくらいは予測できるのだ。

しかし、物語は始まるところなので、もちろん郷里へは戻らない。そして、ストーリー展開のため、主人公のヒーローであるロイと関わる暗の女と明の女が登場するのであるが、前者を伯父であるロイが所属するチームの監督が語る。

「あの娘はほんとは悪い人間じゃないんだが、しかし運のないやつで、それもいまにはじまったことじゃなく、わしが思うに、あの娘にはなにかしら不吉なものがとりついてて、それがあの子の運(つき)を他人のほうへ持ってっちまうんだな。だから、おまえは用心して、あの娘とあまりかかり合わないようにしてもらいたいわけさ」

ロイはチームにとって重要な存在だから、監督も身構える。気の毒だけど、ときに何かこのような女性いるな… と思ってしまったり。そして当の本人もボーイフレンドのバンプが死に

バンプが死んだあと、あたしはもう二度と幸せにはなれないんだってわかったわ」

と言う。その開き直る態度が、結果として幸せから遠ざかるのでは?と自分はつい分析してしまう。一方、明の女もそれ相当の苦労を積んでいるが、

その大きな目の中に、この女は人生のなんたるかを知っているなと思わせるものがあるのを、ロイは見てとったのだ、もっともほんとのところはなんとも言いきれないが。

と主人公ロイに思わせる。

ベーブルースの逸話などを利用し野球小説を読ませてくれるが、主人公ロイにとってはネガティブな結末を迎える。それでも、この明の女の存在が、ロイにまだ可能性を残した余韻を感じさせてくれるのがいいと自分は思った。

この1冊でした

奇跡のルーキー (1984年) (ハヤカワ文庫―NV)

 

奇跡のルーキー (1984年) (ハヤカワ文庫―NV)