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名著「幻の女」は「夜」を放つ決定的な冒頭が決め手

お題「好きな作家」

若い夜はどんな夜?

ネタバレしない程度に説明すると、冒頭のバーでのやり取りからストーリーは始まります。

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Bar Pigrone@東京の荻窪
Nikon D7200 with 35mm f1.8

物語はニューヨークですが、画像は極力似た?雰囲気のイメージで… ちなみに、こちらはうちの近所のお店です。

深夜まで営業しているバーになりますが、結構お料理が美味しく、好みを伝えると適当にアレンジしてくれます。

この写真にちなんで、こちらを紹介したい。
幻の女ウィリアム・アイリッシュ(ハヤカワ文庫)

原文と翻訳の両方を楽しめれば最高

ネットでちょと調べればすぐにわかることですが、1942年に出版された米国のミステリーで、wikipediaによれば「江戸川乱歩が手を尽くして原書を入手し高評価を与えた」1冊です。

ということで、読みどころは色々ありますが、今回の「スマートレターで(文庫本)交換会」のお題「夜」に関して言えば、この冒頭が理由で、この部分だけで決めました。

夜は若く、彼も若かったが、夜の空気は甘いのに、彼の気分は苦かった。

なお原文は

The night was young, and so was he. But the night was sweet, and he was sour.

となります。

戦後間もない日本では、「夜が若い」にポエムを感じて萌えたようなので、私もここを指して?刺して?みました。

タイトルは「Phantom Lady(ファントム・レディ)」でファントムという言葉が作品を象徴してます。適当な日本語が存在しないので、ここが訳者の魅せどころでしょうか。ここでは「幻の女」、「オペラ座の怪人」の怪人もファントム、悪くはないと思ってます。

訳者の黒原敏行氏はあとがきで、冒頭一文の訳を

このたびの新訳では、稲葉明雄氏の名訳を、ご遺族の了解をいただいたうえで、そのまま使わせていただきました。

とあり、私が読んだ旧訳と同じでした。下手にこねくり回すより、妥当な処置かもしれません。

訳者の黒原氏、私のお気に入りで、ノアールなど影や毒?が含まれる苦い作品?を読ませてくれるところが押しです。ということで、訳者も選書の理由になりました。

なお私が読んだのは稲葉氏の訳になりますが、ストーリーからの作品の特色として

彼女の靴は四十ドルは思想な特別注文の品だが、あまりにも長い間、穿きふるされていた。踵や光沢のぐあいから、それははっきりと見てとれた。

登場人物の特徴をその姿から描写する点

頭の回転だけで生きてゆかねばならぬ、落ちぶれた人にありがちの、病的に警戒の表情。つぎの機会がどの方向からやってくるのかわからないので、いったん訪れたら、ぜったいにのがすまいとする戦々兢々たる表情。よく気をつけて見れば、そうした些細なことがらが集って、彼女のいまの立場を物語っているのがわかるだろう。

こういう記述ができる作者は、いろいろな人間模様を見ているのだなと窺わせる点

「(略)そう、なによりもまず、不安のない確かな生活があって、それは彼女が死ぬまでつづく約束になっているのよ。永久に続くはずなの。あたしには、その女が自分だとは信じられないの。あたしでないことは、ちゃんとわかってるんだわ。でもね、ウィスキーを飲むと、それがあたしだと思えることがあるの。(略)」

そして、感情的に訴える部分があるところも捨て難いです。苦しいときにも、希望?を感じさせてくれたり。

しかし!

(略)って男には、どこか気味の悪いところがあったんだね。ユーモアのセンスがまったく欠如している。あまりにも永年、自然ばかり相手に生活してきたせいだろうかね。

都会より自然を好む自分にこの一文は納得いかず。まあ、作者自身が都会ボーイだから仕方ないですが、「自然ばかり相手にしてきた」人物の方が、裏切りなどの人間の変わり身に柔軟な対応ができない可能性については納得できるかな。

この1冊でした

幻の女〔新訳版〕 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

幻の女〔新訳版〕 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

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